福岡大学医学部医学科/平成26年小論文模範解答例

 課題文では、次の二つの立場が説明されている。ひとつは、EBM、すなわち科学的なエビデンスに基づく医療に一辺倒になっている、現在の日本の医療の立場である。もう一方には、NBM、すなわち物語に基づいた医療と先のEBMをセットにして医療を行うという立場が説明されている。患者という一人の人間を相手にする医療という営みにおいて、私は、その患者のバックボーンとなっている思想や経験を重視すべきであると考える。なぜなら、医療とは、単に患者の生命活動を維持できればよいというものではないと考えるからである。

 確かに、患者の命を救うことは重要なことであることは間違いない。しかし、当の患者が、治療を拒否し、患者自身の人生を静かに終わらせたいと考えるケースではどうであろうか。そのケースにおいては、患者の人生に対する自己決定権が尊重されるべきであると考える。なぜなら、医療とはそもそも医師が相対する患者本人のためにあると思うからである。したがって、医療においては、NBMという、患者の歩んできた人生を考慮に入れた治療をしていくべきである。そうしなければ、本人の意思に反した治療を行い、結果的に患者が不幸になってしまうだろう。もちろん、医療技術という「武器」を進化させ、信頼に足るものにしていくことは必要である。ただ、その武器を駆使する前提として、医師の独り善がりではない、患者を主体とした目線で物事を考えていく必要があると思うのである。

(600字)