杏林大学医学部/平成28年度小論文模範解答例

問題

「褒めて育てる」ことについて述べなさい。

 「褒めて育てる」ことについては賛否両論がある。「褒めて育てる」の対極には、「叱って育てる」という育て方があり、その立場からすれば、「褒めて育てる」のは「甘やかしている」と映ることもあるからだ。「育てる」対象としては、親にとっての子ども、教師にとっての生徒、上司にとっての部下などが挙げられる。しかし、いずれにしても、私は「褒めて育てる」方法が、よりよい結果を生み出すはずだと考える。

 たとえば、医療現場においても、上司と部下、先輩と後輩の関係がある。その中では、医療技術の乏しい部下や後輩のことを「育てる」ことが必要不可欠となる。彼らが医療従事者として自立するためには、うまく育てていくことが重要だ。それが医療現場の環境や質の向上につながる。それでは、いかに育てていけば自立した医療者を生み出していけるのだろうか。私は、先述のように、「褒めて育てる」ことが必要であると考える。なぜなら、「褒める」という行為自体が、相手の自尊心を尊重するものであるからだ。人間だれしも自分なりの自尊心があり、それを認めてもらうことで、次のより高い段階へ進むことができる。マズローの言うように、自己承認欲求を満たしてはじめて、自己実現欲求が現出するのである。その段階まで進めば、積極的に学び、必要なことを得ようとする姿勢が自然と身につくと考える。もちろん、間違ったことや道理に反することはその誤りを正さなければならない。しかし、それは育て方の一部であって、その基盤には「褒める」すなわち「相手を認める」という姿勢が確固として存在するのである。

 このように、「育て方」には絶対的な正解はないのはもちろんであるし、育てる対象によってその方法論が異なってくることも当然あるはずだ。それでも、育てるには、「褒めて育てる」ことが必要だと考える。なぜなら、その営みが、相手を承認し、より高い次元へと導くことができる方法だと考えるからだ。

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