<問題>
ある大学生がいました。この学生が街角の古道具屋でふと買った壺を何気なく触っていたところ、中から壺の精が現れて「何でも願いを一つかなえてあげよう」と言いました。その学生が100万円欲しいと願った場合、この壺の精は他の人から100万円を盗んで持ってきますし、永遠の寿命が欲しいと言ったら、他の人の寿命を奪ってその学生にあげるというやり方で学生の願いをかなえることになります。この学生はどんな願いを願うのか、600字以内でストーリーを創作しなさい。
<解答例>
「私が、この壺を買ってあなたと会った、この記憶をなくしてください」
学生は決然として言った。
「何でも願いを一つ叶えてあげよう」と言われたとき、学生の心が躍ったのは確かだ。学生は小学生のときに父を交通事故で亡くし、母が一人でその学生を育てた。父を失ってから、母は看護師として働き、生計を立てた。
「看護師になれるように勉強してよかった」
ある日、母がこぼした一言を学生は今でも覚えている。それは、単に母の心情を察したから、という理由だけではない。
「手に職がある、ということは、こうして自分たちのためになるのだ」と感じ、それで学生は工科大学に入学した。
こうした生い立ちから、学生の脳裏には様々な願いが浮かんだ。
才能、財産、…すべてが欲しかった。
しかし、自分が欲するものを他の人から奪う、そのやり方の前に、学生は踏みとどまった。それは、苦しくて仕方がない自分の境遇を他の人に負わせることではないか。今の自分を、また一人増やしてしまうことではないか。
それを学生は望まなかった。しかし、ここで何も願いを頼まなければ、自分が後悔し続けることを学生は知っていた。自分が弱いことを認めていたからだった。
だから、学生は、何かを欲することを選ぶのではなく、すべてをなくすことを選んだ。
気づくと学生は、古道具屋の前にいた。初めて来たところだ。ふと、その店の片隅に古い壺が転がっていることに、彼は気づいた。
「この壺はいくらですか」