帝京大学医学部平成29年度小論文模範解答例

問 医師の生涯教育について、「医療の発展」と「信頼」という語句を使って、考えを述べよ。

解答例

 医師の生涯教育とは、医師が、大学での教育のみならず、その後も医療について学ぶことである。次に私の考えを述べる。
 今日、医療の発展に伴い、医師が扱う医療の範囲は日進月歩で拡大してきた。例えば、がんの治療にしても、これまでは罹患している部位ごとの抗がん剤治療や、手術によるがん細胞の摘出にとどまっていた。それが今や、遺伝子情報をもとにし、がん細胞を的確に狙い撃つ治療法が確立されつつある。医療を巡るそのような状況下においては、大学の医学部で学んだことだけでは、知識・技術ともに不足していくのは明らかである。したがって、これまでに学んだ知識や技術に加えて、医師の生涯教育として、常に新しい知識を取り入れていく姿勢が不可欠である。
 医師が扱う医療範囲が拡大していく一方で、情報化社会に伴い、患者やその家族が入手できる医療に関する情報も、格段に増大している。インターネットを通じて、処方された薬剤の情報や、受診している治療に関する情報などを瞬時に得られる時代である。これまでの、1人の医師に治療方針から実際の治療まで、すべてを頼る時代は終わりを告げた。患者やその家族が、自分たちが受けている治療に関して疑念をもてば、すぐに治療に関する情報を入手でき、他の医師や病院に受診先を変えることも起こり得る。
 そのような中で、医師と患者の間では、これまで以上に信頼というものが必要不可欠となる。なぜなら、患者が無数の情報へアクセスすることが可能となった今、主治医たる医師を信頼できなければ、すぐに受診先を変え、病院を転々とし、結果的に患者の利益とならないケースも出てきてしまうからである。患者たちにとって、自分がいかに治療されるかは、まさに死活問題であるから、治療の主体としての医師に全幅の信頼を置ける関係性が必要だ。治療にあたる医師は、医療の専門家として、常に医療知識をアップデートし、患者に提供することが求められる。そしてそれは患者との緊密なコミュニケーションへとつながり、より強固な信頼関係と結実するはずだ。
 日々進歩する医療に関する知見を吸収し続け、患者に提供し、よりよい治療へとつなげるための生涯教育が、今日の医師には求められているのだと考える。自分で自分を律し、これからの医療に貢献するために考え、学び、実践する姿、それが医師としてあるべき姿であり、そういった医師を手助けする生涯教育こそが必要なのである。

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